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真の豊かさとは
2012/02/24
一昨日、NHKのBS3「たけしアート☆ビート」という番組で、工業デザイナーの奥山清行さんを訪問する、というのを放送していました。
奥山さんはフェラーリをはじめ、世界の高級スポーツカーをいくつもデザインしてきた、たいへん優れたカーデザイナーでもありました。

その番組の中で、奥山さんが「豊かさってなんだろう。モノの向こうに文化がなければ、いくらまわりがモノで溢れていても、それはほんとの豊かさじゃないんだよね。日本はモノがあふれているけど、ほんとに豊かなんだろうか?ずっとそのモノを残しておきたいと思わせるような、そのモノの背景に文化をはたしてもっているのだろうか?」みたいなことを言っていました。

そう、まさにこれからの世の中は、日本は、このことを追求していくようになっていくんだろうなあ、と思います。
ピアノだって、ピアノの向こうに、しっかりとした音楽文化がなければ、ただ押さえて音が出るだけのモノでしかないわけで、その音楽文化は自分たちで創っていかなくちゃ、あるいは過去の文化であっても、自分たちがそれをわかって、理解していなくては、ピアノを持っている意味がない、と言えば言い過ぎかもしれないけど、少なくとも、そんな音楽文化をあらわすことができるくらいの楽器を僕たちは提供していかなくちゃ、仕事をしている意味がない、と思います。

なんの世界も、同じことをして、同じ問題にぶつかってるんだな、と、あらためて今日はその番組を見て、奥山さんの意見を聞いて、そう思いました。

真の豊かさとは
真の豊かさとは
シュベスターピアノ
2009/04/29
僕の調律のお客様で、鈴鹿市でピアノ講師をしてらっしゃる中原尚美さんという方がみえます。
彼女は僕がピアノを師事している西野夏代先生の同じ門下生です。
とてもいいレッスンをされるので、評判もよく、低学年の子達を中心にたくさんの生徒さんを教えておられます。
それで、もう1ヶ月ほど前になりますが、その生徒さんとお母さんやご家族の方も同伴で、浜松市方面へのバスツアーを彼女が企画して、それに僕も同行させてもらい行ってきました。
総勢30数名のツアーで、行き先はヤマハグランドピアノ工場の見学と、浜松市楽器博物館、それにもうひとつは、となりの磐田市にあるエスピー楽器という、小さなピアノメーカーの工場でした。

エスピー楽器は、僕が中原さんから見学先の相談を受け、紹介をしたピアノメーカーです。
ここは、工場というよりも、工房というほうがむしろぴったりくるような、町のはずれにある、畑や民家に囲まれた、ほんとに小さな工場です。
作られているピアノは、シュベスター(Schwester:ドイツ語で「姉妹」の意)という名前の、高さ131cmクラスのアップライトピアノと奥行き183cmクラスのグランドピアノです。
狭い工場で職人さんが5,6人という中へ30数人が押しかけて、仕事の邪魔をしながら(^ ^;)、それでも、もう70歳になられる社長の岩本さんは、いやな顔ひとつせずに、僕たちや小さな子供さん相手に、にこにこ笑いながら、熱心にピアノのことを話してくれました。

そのシュベスターなんですが、これがちょっとすごくいいピアノだったのです。
特徴としてはまず、響鳴板に北海道産のエゾマツを使用していることがあげられます。
エゾマツは響鳴板の材料としては理想的な特質を持っていると言われています。
しかし今では伐採制限があり入手がかなり困難になってきている、貴重な材料です。
実際ヤマハなんかでもごく一部の高級機種にのみ、このエゾマツを使用しているということです。
ここでは、数年間天然感想をさせてから使用していますが、「去年はこのエゾマツがもう1本も手に入らなかったんですよ。」と社長さんは寂しそうに話しておりました。
あと、響鳴板の厚みの出し方や、響棒と言われる、響鳴板を裏から支えている何本もの支え棒の作り方にも、ピアノが長期間使用に耐えられるような工夫がされております。
あと、外装パネルは、今だに天然ムクのカバ材を使用していると、岩本さんが誇らしげに話され、塗装前のその部品を見せてくれました。
黒く塗ってしまうと、あるいは木目の薄板を貼ってしまうとそんなことはわからないのですよね。

ずっと前にも僕はブログで書きましたが、楽器は結局その作られている材質の音が出るのだと思っています。
やはりこのピアノも、予想通りの、木の響きがよく出た、とてもいい音が出ます。
オーバーなようですが、日本製のピアノで、もしかしたら唯一ヨーロッパのピアノと本気で肩を並べられるピアノかもしれないと思いました。
シュベスターピアノ
シュベスターピアノ
スタインウェイアップライトKとスタインウェイグランドM
2009/01/11
お正月明けの仕事始めは、東京都練馬区在住の石原真さんのお宅でした。
石原さんは東京藝術大学作曲科を卒業されて、現在は作曲編曲活動のかたわら、音大受験生の指導や音大入試問題の解説書の執筆など、それにいくつかの合唱団の指導と、同じく東京藝大作曲科卒の奥様とともに忙しく活動されてます。

そもそも石原さんとは合唱仲間のパソコン通信で知り合い、平成11年秋、彼所有のニューヨークスタインウェイアップライトK型を仲間うちで見に行きがてらに調律もやらせていただいたのがきっかけでした。
その後、とても光栄なことに毎年わざわざ東京まで呼んでいただき調律をさせていただくようになりました。
そして、3年ほど前にはついに1961年製スタインウェイM型グランド(これはハンブルク製)をご購入いただき、ご自宅には現在スタインウェイのグランドとアップライト各1台という、何ともすばらしい環境ができあがったのです。

まず、このアップライト、高さ132cmクラスの黒つや消しの落ち着いた外観です。
そしてその音!まさに打てば響く、まるで大きな和太鼓のような印象を僕はいつも受けます。
繊細な音から力強い音まで、変化自在の、とても表現力の豊かな、魅力のある楽器です。
さすがスタインウェイ!ですよ。
タッチが割と重いので、このピアノを弾きこなそうと思ったら、かなりしっかり弾かないとだめです。
でも、そのときにはこのピアノ、充分答えてくれます。
アメリカ人が創った傑作ピアノ、という感じですね。

かたやハンブルク製M型グランド。これは明るいウォールナットの外観ですが、音もこの明るい外観に合わせたかのような、とても明るくカラッと晴れた木の響きの音が出ます。
タッチも軽快で、このピアノを弾き始めると、なんか突然コンサートのステージに引きずり出されたような、晴れがましい気分になります。
このピアノの天屋根の折り返し部分を手のひらで叩くと、トヮーン、トヮーン、とかなり響く音がでるのですね。
ちなみに国産のピアノだと、ほとんどがコッ、コッ、あるいはペタ、ペタ、というまさに固い、響かない材料で作ってあることが想像されられるような音しか出てきません。 
ピアノは響板や弦、あるいはハンマーだけでなく、ボディ全体で音を創っていることをこのピアノの音は語ってくれてます。
さすがです。

2台の調律が終わると、石原さんの(すさまじい)試弾が始まります。
これがまた何とも楽しみなのですね。
今回はベートーヴェンのピアノソナタ、特に初期のものをいくつも弾いてくれました。
広いホールでなく、身近で聴くベートーヴェンのソナタは、曲本来の良さ、と言うか、初々しい、みずみずしい、勢いのある曲の魅力がとてもよく伝わってきました。
以前に別のブログでも書いたことがあるのですが、僕の中でまたまたベートーヴェンのイメージが変わった、もちろん良くなった、そんな経験ができました。
石原さんの弾くピアノからは僕はいつも無形のいろんなことを教えてもらってます。

僕から見ると石原さんのピアノは「ちょーウマい。」のですが、そのことを直接本人に告げますと、彼曰く、
「いやいや、大学時代の僕のクラスには僕なんかよりももっとうまいヤツが何人もいたんですよ。」
だ、そうなんです。
中でも一番うまかった人は、大学入試の実技試験の時、その人が試験の課題曲を弾き終えたとき、3人の試験官のうち一番年配の(一番権威のある?)試験官が「すばらしい!」と叫んだということで、入試という厳格な場面で、しかも専攻ではなく副科の試験で起こった奇跡的事件として伝説になってるそうなんです。
その話を聞いた僕は、不覚にも涙が出ました。
世の中にはどこにでも、計り知れないすごいひとがいるもんなんですね。
人間のすごさですね。感動します。

石原さんは僕に「もし、拙宅のピアノを弾いてみたいというような人があらわれたら、ぜひどうぞ、とお伝えください。」とおっしゃってました。
興味のある方は info@m-pt.com までどうぞお知らせください。

中国の故事に「遠交近攻」という言葉がありますが、僕は三重県から遠く東京まで行くことによって、おそらく三重県ではなかなかできない経験や刺激を受けてます。
決して「近くを攻める」わけではありませんが、「遠くと交わる」ことは、地元で活動をしていく上でとても大きな力になることを、いつも感じています。
スタインウェイアップライトKとスタインウェイグランドM
スタインウェイアップライトKとスタインウェイグランドM
ボストンピアノBP218
2008/10/09
先日、ボストンピアノBP218グランドの調律に行ってきました。
平成7年にご購入いただいたピアノです。
ボストンピアノとはスタインウェイが基本設計をして、それを河合楽器で制作したピアノです。
日本での販売は、当時はBPCジャパン、現在はスタインウェイジャパンが行っております。
価格は当時カワイやヤマハなどよりは若干高めだけど、スタインウェイのことを思えば、はるかに安く設定されていました。

このピアノは、ボストンの中でも一番サイズの大きいもの。
オーナーのKさんが、それこそ一目惚れしてご購入されたものです。
ピアノのいい買い方ですね。

音は、もちろんスタインウェイの音ではないですが、とても明るい、クリアな音です。
アメリカ的な音と言えるかもしれません。
そういえば鍵盤蓋とその横の腕木の角張ったデザインも、ニューヨークスタインウェイを連想されます。

ちなみに、スタインウェイ社はニューヨークとドイツのハンブルクに工場を持っていて、それぞれの工場で作られるスタインウェイピアノは性格に若干の違いがあり、デザインも細部で異なっております。
ヨーロッパと日本に入ってくるのはハンブルク製、南北アメリカはニューヨーク製(日本をのぞくアジアもそうだったか?)が配置されています。
ですから日本ではそのほとんどがハンブルク製になります。
たまに日本で見るニューヨークスタインウェイは、ハンブルクとはちょっとちがったニュアンスを聴かせてくれ、それはそれでハンブルクにない魅力があります。

それでボストンですが、方向としてはそのニューヨークスタインウェイのほうを向いてるような気がしますが(そういえばニューヨークとボストンも近いですしね)、音色の基本としては、やはりカワイの音を思い出させます。
機構的には、カワイのアクションは随所にプラスチック(ABS)樹脂を使用していますが、ボストンは木製のアクション部品を採用してます。
また一部スタインウェイ方式とでも言う部品(ハンマーバットフレンジ)の形も採用されてます。

ピアノを選ぶときに一番大事なことは、まああたりまえかもしれませんが、その音色に惹かれるかどうかでしょうね。
僕も当時、ボストンのある意味斬新な音色にけっこう魅力を感じましたし、この218は豊かなサイズともあいまって、明るく豊かな響きが出ているとても魅力的なピアノです。
購入された当時、お客さまが「CDと同じ音が出る。」と評していたのがとても印象深く記憶にあります。
うん、確かに。
ボストンの持ってる力かもしれません。
ボストンピアノBP218
ボストンピアノBP218